子犬の夜泣きにどう対処する?【愛犬のトラブル解決】エルフドッグスクール 犬のしつけ 東京練馬区 23区


ドッグトレーナー歴25年、子犬(生後4ヶ月未満)の夜泣きについての相談は何度もうけてきました。
ですが、子犬の夜泣きが拗れて、そのまま問題行動になったという事例に当たったことも、そのような問題をネットで見かけたことも、犬の行動についての文献で目にしたことも、ただの一度もありません。
今までは【子犬の夜泣きは無視】がセオリーでした。
しかし、だからといって100人が100人無視できるわけもないでしょうし、人は無視しているつもりでも実は無視になっていなかったり、そもそも子犬の夜泣きは無視をするべきなんてことを知らずに育ててきた人だって星の数ほどいるはずです。

それなのに、子犬の夜泣きがその後の問題行動に発展しなかったのはなぜなのか?そして、そもそも無視することに意味はあるのか?もし意味が無いのだとしたら、より良い子犬との接し方があるのではないか?

今日はそんな疑問を解いていこうと思います。
※ここでいう夜泣きとは、サークル内もしくはそれに準ずる、行動範囲を限定された空間の中で、夜寝静まってからおこる、子犬の一定時間鼻鳴き等の吠え行動のことを指し、排泄時や空腹時の吠えとは異なります。

まず、
人間の子供は0〜5歳までの間に、間脳・脳幹部の発達があり、寝る、起きる、食べる、体を動かすetc生きるための脳(カラダ脳)が発達します。
子供の脳の発達は間脳・脳幹部に続いて、大脳新皮質→前頭葉の順番で発達していきます。
この順番とバランスが崩れると、思考が短絡的になり、理論的・社会的な思考や行動が苦手となるといわれています。
そしてこの脳の発達の土台となるのが先に述べたカラダ脳であって、カラダ脳の発達には、規則正しい生活と、安全な場所・安心な仲間の存在が必要不可欠となります。
のちに理論的・社会的思考の原型となる『遊び』は、動物にとっての基本的な欲求全てが満たされた時初めて健全に開始されます。
カラダ脳の発達を安心安全の中で発達させることが、のちの遊びにおいても重要になるのです。

話を子犬に戻しましょう。
通常犬は多産であり、一度の出産で数頭の子供を産みます。周りには母犬と兄弟姉妹犬がいて肌を擦り合わせています。つまり、ありのままの環境であれば、子犬が1匹になることはありえないわけです。
ですが、ペットショップやブリーダーを経て、子犬が皆さんのお家に向かい入れられるときは、そのほとんどが1匹で引き取られます。つまり、子犬にとっては遺伝子情報にないアクシデントの発生であり、未知なる事態に不安を抱えた状態で、現状を理解する必要におかれます。

だから夜泣きをするわけです。

この時に、旧来のドッグトレーニングでは「夜泣きに応えると、泣けば人がきてくれると学習して夜泣きが悪化します。なので、子犬が夜泣きをしても無視しましょう。」と言われ続けてきました。

無視とは、ターゲットの行動に報酬を与えないことで、行動(この場合夜泣き)の先行事象と後続事象の変化を無くし、その行動をとっても無意味であるとしてターゲットとする行動を消去するための行動変容理論です。
なので、子犬の夜泣きを無視すれば、結果子犬の夜泣きは無くなります。
この時の子犬の心を推測すると、
・未知なる環境に連れてこられ1人で不安→夜泣きをする
・泣いても誰もいない、何も変わらない→泣いても無駄
・この場所で幾晩か過ごしたけど何も危険なことは起こらなさそうだ(たぶん)→黙って寝る
という心的変化が推測できます。

一見すると子犬は自立をして眠るようになったようにも思えますが、人間は子犬の不安に介入していませんから、子犬からみた人間は【危険ではない存在】であると推測できます。
しかし、
先に述べたように、健全な脳の発達には、規則正しい生活と、安全な場所・安心な仲間の存在が必要不可欠です。しかしこの【夜泣きは無視】というトレーニングでは、『人間は危険ではない』とは理解させることはできても、『人間がいると安心だ』と理解してもらうことはできません。なぜなら人間は、不安な時にただそこにいるだけで、何もしてくれない存在なだけですから。

このことは、子犬が生後4ヶ月をすぎて成犬へ成長していく過程で、もしかすると大きなネガティブ要因になるかもしれません。なぜなら、健全なカラダ脳の発達は、のちの理論的・社会的思考の土台となるからです。

では、子犬の夜泣きにはもっとよい対処法があるのでしょうか?

これはあくまで私見ですが、子犬の夜泣きは無視をするよりも、夜泣く必要のない環境を作ってあげる方が子犬の心の形成に健全に働くと考えています。
それには夜寝る時に孤独にさせないこと、近くに安心できる仲間の存在を感じられることが必要です。
この時期の子犬はまだ排泄の回数も多く、トイレトレーニングも未完成なので、ほとんどの場合はサークル内で夜を明かすこととなります。この際に、生後3〜4ヶ月までの間、子犬のいるサークルの横に布団を敷き、サークルの隙間に手を差し込んで寝てください。(※ちなみに私はこの方法で寝ていました。)
子犬は夜中に目を覚まします。その時に周りが暗く音もなく、誰もいない時に不安と孤独を感じ、夜泣きをします。ですがその時に、そこに人の手があれば、子犬はその手の匂いを嗅ぎ、時には舐めたり噛んだりして、自分以外の命の存在を感じることで、安心して夜泣きすること無くふたたび眠りにつくことでしょう。
この時に、無理して手を動かす必要も、声をかける必要もありません。子犬が孤独を感じなければOKです。この方法であれば、子犬は人間を『危険じゃ無い存在』ではなく『安心できる存在』と認めるでしょう。

この方法で、「人間への依存が高くなり、ひいては分離不安症様の問題に発展しないの?」との心配があると思いますが、その心配も無用でしょう。
なぜなら、安心を得たいという欲求は無限ではなく、子犬が適正な期間に必要な安心を心ゆくまで得ることができたのなら、それ以降は健全な成長と共に、自立や探索、発見、チャレンジといった社会的な欲求と行動が発達してくるからです。
分離不安症になるのはむしろ、適正な時期に必要な安心を得られなかった子犬が陥る心的症状であると考えられます。

もちろん、子犬に学習させるべき経験はたくさんありますから、これはそのひとつというお話です。