犬の無駄吠え・噛みつき・怖がり などの問題行動は遺伝?しつけ?

本記事は、東京大学獣医動物行動学研究室の武内ゆかりさんの行動遺伝学の記述から、私がピックアップした部分を、文章が繋がるように手を加えたものです。

【ほんのちょっとだけ行動遺伝学】

犬種と育ちの間の関係は複雑に絡み合っていて、遺伝に関して説明するとき、全てを単純なメンデルの法則で説明することは不可能であることを前提とするが、被毛色と攻撃性の関係においては興味深いデータが存在する。
ケンブリッジ大学にて、イングリッシュコッカースパニエルの攻撃行動に関して飼い主に対する調査を実施したところ、単色の方が斑色よりも多くの個体が、そして単色の中では、赤茶色の方が黒色より多くの個体が攻撃行動を発現していた。
さらに、コーネル大学ブラドールレトリーバーの攻撃行動と被毛色との関連を解析した結果、攻撃行動が問題となる割合が黄色のラブでは高くチョコレート色のラブでは低い傾向があることが示された。
多くの被毛色はメンデルの法則に従って遺伝するので、これらのデータは攻撃行動の発現のしやすさが遺伝し、色素沈着を制御する遺伝子とともに伝えられる可能性を示唆しているといえる。

遺伝的な要素が性格形成の基盤として重要であるとしても、初生期環境の影響を無視することはもちろんできない。
マウスやラットといった小型齧歯類において、幼少期に受けたグルーミングの回数と将来の行動パターンの間に密接な関連があることが明らかになっている。母親からよくグルーミングを受けた子は将来おとなしい個体に育つ傾向があり、グルーミング回数の少なかった子は大人になってから不安傾向が高かったり攻撃的な性質を示すという。さらに、母親のグルーミングの影響は、子ラットの学習認知機能の発達にも影響を及ぼすのである。
そして、母親交換の実験によりこれらの傾向は遺伝的要因によるものではないことが示された。

ある特定の犬種がブームになってからしばらくすると、問題行動の発生が多くなる。これは、需要に追いつこうと不適切な繁殖が行われるため、遺伝的要因とともに、人気商品となってしまったがゆえに、早い時期に親兄弟から引き離され、大切な感受期をペットショップのショーケースや輸送トラックの中で孤独に過ごさざるをえないことが心の傷となって長く尾を引く可能性についても考慮してみる必要がある。

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